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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)3276号 判決

控訴人 岩田豊治

被控訴人 駿河信用金庫

右代表者代表理事 勝間田一男

右訴訟代理人弁護士 山本雅彦

主文

本件控訴を棄却する(ただし、原判決主文一項は、請求の減縮により「控訴人は被控訴人に対し、金一億八一八七万四〇〇〇円及び内金一〇〇〇万円に対する昭和六〇年一一月一二日から、内金三〇〇〇万円に対する昭和五三年一二月一日から、内金一億二四二五万円に対する昭和五八年七月二七日から支払済みまで日歩四銭の割合による金員を支払え。」と変更された。)

控訴費用は、控訴人の負担とする。

理由

一1  請求原因一項の事実のうち、控訴人が昭和四六年八月五日加藤高明の被控訴人に対する債務のうち三〇〇〇万円を限度として連帯保証したものであることは、当事者間に争いがなく、≪証拠≫によれば、被控訴人は、昭和四六年八月五日加藤高明と手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、支払承諾その他一切の取引に関して生じた債務についてその履行は金庫取引約定書記載の約定に従う旨、遅延損害金の割合は日歩四銭とする旨の金庫取引約定を締結し、控訴人は同日被控訴人との間に、加藤高明の被控訴人に対する一切の債務につき、右約定を承諾のうえ連帯保証をしたことが認められる。

当審証人加藤高明、同岩田俊弘の各証言並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中には、右認定に反し、控訴人は三〇〇〇万円を限度として連帯保証した旨の供述が存し、右本人尋問の結果中には、控訴人は前同日被控訴人に対し三〇〇〇万円を限度とすることを明記した保証書を差入れた旨の供述が存するのであるが、本件全証拠によつても、右のように限度額を明記した保証書が差入れられたことを認めるに足りないうえ、≪証拠≫によれば、(1)控訴人は、昭和四六年八月当時田畑山林等多数の不動産を有し、町会議員をしており、土地造成等の仕事をしていた加藤高明とともに高速道路の開通を機に地元に工場誘致をすることを計画し、加藤高明が代表取締役として昭和四五年四月四日設立した日本実業株式会社の取締役となり、同じく加藤高明が代表取締役として同日設立した日本光明観光株式会社の取締役となつたりして、加藤高明とは仕事上のつながりもあつたこと、(2)被控訴人は控訴人に対し、昭和五〇年三月二九日加藤高明への融資額が増加しておりその後も増加することが見込まれるため、昭和四六年八月五日の連帯保証契約を確認する旨の保証書を提出するよう要求し、控訴人はこれに応じて保証書(≪証拠≫)を提出したが、右保証書には限度額の記載がないこと、(3)被控訴人が控訴人に対し、昭和五五年一一月七日到達の書面で、加藤高明が金庫取引約定に基づき負担する債務一億八〇〇〇万円について、控訴人の昭和四六年八月五日付連帯保証契約に基づき、控訴人の所有する担保物件について法的処理をしたが、なお不足のある場合はさらに弁済を要求することになる旨通知した際、控訴人は何ら異議を述べなかつたこと、(4)被控訴人は、昭和五五年一一月一〇日控訴人に対する連帯保証債務履行請求権三〇〇〇万円及び遅延損害金を被担保債権として、控訴人所有の不動産につき仮差押決定を得てこれを執行したところ、控訴人は被控訴人に対し、昭和五七年一二月一日加藤高明と連名で、同月六日自己単独で、右仮差押された土地のうち四筆が町公民館の建設用地として買収の対象となるため担保を解除して欲しい旨の要望書(≪証拠≫)を提出し、被控訴人は控訴人に対し、昭和五八年三月一六日到達の書面で、公共性を考慮して担保の一部解除に応ずるけれども、控訴人は加藤高明の金庫取引約定に基づく債務について連帯保証人として包括して責任を負つており、その債務額は当時で元本一億七四二五万円、損害金六〇〇〇万円である旨通知(≪証拠≫)した際、控訴人は何ら異議を述べなかつたこと、以上の各事実が認められ、これらの事実からすると、前記証人加藤高明、同岩田俊弘の各証言及び控訴人本人尋問の結果中の供述は措信することができず、他に前示認定を覆すに足りる証拠はない。

2  控訴人は、被控訴人が昭和五〇年三月二九日被控訴人に対し金額の限度のない保証書を差入れたのは、被控訴人が以前の書類に不備があるから必要である旨申し向けたためである旨主張し、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中には、右に副う供述が存するのであるが、右供述は≪証拠≫に照らし、にわかに措信することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

二  請求原因二項の事実は、≪証拠≫により、これを認めることができ、被控訴人がその主張(二)で述べる配当を受けたことは、被控訴人の自認するところであり、その充当関係については、弁論の全趣旨によりこれを肯認することができる。

三  控訴人は、被控訴人と加藤高明が癒着して、回収の見込もないのに巨額の融資をした旨主張するが、本件全証拠によるも右事実を認めるに足りず、被控訴人の控訴人に対する請求は信義誠実の原則に反し許されないとの控訴人の主張はこれを採用する余地がない。

四  そうすると、控訴人は被控訴人に対し、連帯保証契約に基づく債務金一億八一八七万四〇〇〇円及び内金一〇〇〇万円に対する昭和六〇年一一月一二日から、内金三〇〇〇万円に対する昭和五三年一二月一日から、内金一億二四二五万円に対する昭和五八年七月二七日から支払済みまで約定による日歩四銭の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

五  以上の次第で、被控訴人の本訴請求は、これを正当として認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却する

(裁判長裁判官 中村修三 裁判官 篠田省二 関野杜滋子)

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